228 研究領域の現状
田 中 彰 治(助教) (1989 年 4 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:非ベンゼン系芳香族化学,分子スケールエレクトロニクス
A -2) 研究課題:
a) 量子効果素子回路の単一分子内集積化法の開拓 b) 単一分子ワイヤの伝導特性の系統的解明
c) 基板表面に設置した巨大分子系の実空間電子構造解析
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 本研究では,「単一巨大分子骨格内に量子効果素子回路をまるごと集積化」するための逐次精密合成プロセスの開拓 を目指している。昨年度に引き続いて,単電荷トンネル素子回路の根幹パーツ群(トンネル/静電接合,クーロン島, ワイヤ/アンカー)の構造バリエーションの増強を進めた。特に,ナノ計測グループからの要請を受け,三端子系分 子(単電荷トランジスタ/ターンスタイル)の主鎖と側鎖のサイズを系統的に延長したサンプル群の汎用合成プロセ スの開拓を行った。さらに,100 nm 〜 1000 nm 級の超大型分子鎖の精密合成の要請も受けたので,その探索実験も 進めている。
b) 電極/単一分子鎖/電極系における電荷輸送特性の解明と制御法の開拓を,阪大・夛田−山田 G,産総研・浅井 G らと実施している。昨年度までに,「基準系」となる被覆分子ワイヤ群の単一分子電子伝導特性について詳細に明ら かにした。本年度からは,分子ワイヤ内の定位置に電子構造変調を加えた場合の伝導特性変化について系統的解明 を始めた。その第一歩として,主鎖中央部に,「各種置換基ベースの構造変調」,及び「各種拡張パイ共役系ベース の構造変調」を加えた試料群を作成した。その物性評価は,現在進行中である。一方,発光中心や磁性中心を導入 した機能性分子ワイヤの電子特性を評価するための合成/計測研究を京大・田中(一)G と実施中である。さらに, これら電子/光/磁気機能ユニットを集積化した大型分子群を,マイクロ〜ナノ電子回路システムに組み込み,機 能発現させるための探索研究を,本年度後半よりスタートした新学術領域研究「分子アーキテクトニクス:単一分 子の組織化と新機能創成(代表:阪大/夛田)」において始めた。
c) 複数の電子機能ユニットを集積化した巨大単一分子系の「基板上に設置した状態での分子形状」や「複合的量子構造」 を,走査型トンネル顕微鏡の分光イメージング法により,官能基分解能レベルで解明するための研究を横浜・市立 大の横山 G と実施している。その根幹技術は,高分解能 S T M 観測に必須な高品位測定試料(巨大分子が,平坦/ 清浄基板上に,絡み合うこと無く個別に配置した試料)の作成技術であり,その汎用化を目指した研究から進めて いる。昨年度,最も単純な被覆分子ワイヤ群(主鎖 :10 nm 〜 120 nm 長クラス)について,エレクトロスプレー法に よる高品位試料の作製法を確立した。この方法論の一般化を進めるため,本年度は,トンネル接合系を導入した二 端子/三端子系(主鎖/側鎖:10 nm 長クラス)について,各種条件(溶媒系,試料作成シーケンス等)を最適化 した結果,再現性よく高品位試料を作成し,官能基分解能レベルの ST M イメージを得ることが可能となった。
B -1) 学術論文
T. YOKOYAMA, Y. KOGURE, M. KAWASAKI, S. TANAKA and K. AOSHIMA, “Scanning Tunneling Microscopy Imaging of Long Oligothiophene Wires Deposited on Au(111) Using Electrospray Ionization,” J. Phys. Chem. C 117, 18484– 18487 (2013).
研究領域の現状 229 B -7) 学会および社会的活動
学会の組織委員等
分子研分子物質開発研究センター・特別シンポジウム「分子スケールエレクトロニクスにおける新規分子物質開発」主催 者 (1998).
応用物理学会・日本化学会合同シンポジウム「21世紀の分子エレクトロニクス研究の展望と課題—分子設計・合成・ デバイスからコンピュータへ—」日本化学会側準備・運営担当 (2000).
第12回日本MRS学術シンポジウム:セッション H「単一電子デバイス・マテリアルの開発最前線〜分子系・ナノ固体系 の単一電子デバイス〜」共同チェア (2000).
F irst International C onference on Molecular E lectronics and Bioelectronics 組織委員 (2001).
B -10) 競争的資金
科研費基盤研究 (C ), 「単一分子内多重トンネル接合系の精密構築法の開拓」, 田中彰治 (2007年 –2008年 ).
科研費基盤研究 (B), 「単電子/正孔トンネルデバイス回路の単一分子内集積化のための分子開発」, 田中彰治 (2010 年 –2012 年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
新学術領域研究の分子開発人にもなったので,6〜8研究グループに対して,各々専用仕様の巨大分子の設計施工を,若 干一名で行わなくてならない。結局,「はじめの一歩」の分子開発は,自分の理想的な分子像の追求がベースとなるので,妥 協の無い個人戦になるものである。よって,少々無謀な個人戦は覚悟の上である。しかし,実験に専念する時間を削られては, ひとたまりもないのである(怒)。そこのところ,よろしゅうに。